いつかは介護・5分の3の記録

脳梗塞で倒れた家族の介護日記でしたが、死生観なども綴ります。

夏 祭

リハビリのおかげもあって、個室から4人部屋へとまた劇的な回復を見せた義父は、意識もはっきりし、この頃食欲も増している。

元気な頃から鰻、ブリの照り焼き、味噌煮込みなどこってり濃い味が大好きな義父のこと、病院で用意される薄味の食事ではもの足りないようだ。

 

「焼きそば、食べたいなぁ。」

と義父の声が聞き取れる。

「焼きそば、いいなあ。」

と返すと

「よし、行こうか!」

勢いのある返事がかえってくる。

もちろん外食できるわけはない。一般の食事は塩分の関係で摂ることができないのだ。

でもそんな前向きなことを言ってくれるようになったのがうれしかった。

 

ある日、看護師さんに呼び止められる。

「今度、うちの病院で夏祭りがあるんですけど、いらっしゃいますか?」

義父がどこまで楽しめるかわからなかったが、病院の外へ出るのも気分転換になるだろうと思い、参加を伝えた。

 

その日病室に行くと、すでに車椅子に座った義父が待っていた。

道路を渡り、お祭りの会場まで行くと、それなりに夜店も用意され、櫓の上には子どもたちの太鼓、踊りの輪もできていた。


ひさしぶりに顔を見る看護師さんと話をしながら車椅子を押していると、ソースの焦げる香ばしい匂い。

焼きそばの夜店が目の前にあった。


なんとか一口でも食べさせたくてひと皿買うと、割り箸でできるだけ細かくした。

柔らかく作ったものではないから、細かくするのは難しいが、それでもスプーン1杯くらいの焼きそばを何度かに分けて口に運ぶ。

むせずに飲み込むことができたようだ。


お祭りのお囃子で聞き取れないが、

「美味い」と聞こえたような気がする。

アイスクリームを少しなめたり、普段食べたくても食べられない味を楽しむことができて、こちらもうれしくなる。


しばらく踊りや太鼓を楽しんでいたが、風がでてきたので部屋に戻ることにした。


「お誘いありがとうございました。父も喜んだようです。」

とナースステーションに残る看護師さんにお礼をいうと、

「楽しんでいただけましたか?良かったですね。おつかれさまです。」

爽やかな笑顔が返ってくる。



穏やかなひととき。

ありがたいことだとことだと思う。