いつかは介護・5分の3の記録

脳梗塞で倒れた家族の介護日記でしたが、死生観なども綴ります。

いつか解き放つもの

小さい頃からひとよりもたくさんのカードを持っていたような気がする

驚くほど強いカードも、驚くほど弱いカードも、驚くほど秘密のカードも

それをあらわにしたまま生きていくにはかなりの軋轢があった


使うべきカードもその濁流に呑まれ、またいくつかのゲームを構築する
勝ったところで、なにも楽しくはないことを知る
頂上に立って、下に重なる死屍累々を知る


結果は残る

だが
なにも楽しいことはない

強いものを斬るのに罪の意識はないが
弱いものを踏みつけるのは心が痛む


戦うことに犠牲が出るのなら
一切の戦いをやめよう
そう決めて

すべてのカードはこころの奥にしまい
なにごともなかったかのように
静かな時を迎える



閉じた瞳と
感度の悪いアンテナと
誰の助けの声をも受けない耳と

なにもしらないように
なにごともなかったかのように
そんな生き方もいいかなと


ただ
これは なにも産まない
なにも進展しない生き方

振り向いて
あまりの非生産的な日々に
壊れそうになる



埋もれ踏み固められそうになって
初めてわかる自分の形

小さなものたちが教えてくれる
足りないものを足してくれる
自分を守ってきたカードが発動する

こうあるべきところへ伸びてゆく
自然な流れ


また幾つかの葛藤の末
大きな幹になろうとする

元気のない枝を継いで
もとどおりになるまで


見返りなどなにもない
なにもいらない
なにかが伝わればいい



違う枝で花が咲く
実がなれば鳥たちが集まる

継いだ枝は別のものに成長したら
離れていけばいい

それまでの間柄



いつか離れていった枝が
どこかで幸せに笑っていられれば
それでいい

笑ってるのかな
笑えているのかな






義父には二人の母親がいた。
子どもの頃に亡くなった、その実母の親族が先日お参りしてくださった。
台風で日が延びて、8月も終わる頃、週末に行きますとの電話。

それから途端に重苦しいものが押し寄せる。前日には悪寒で鳥肌が立つ。
子ども4人を残して逝くのはそれほど無念だったのか。

かなり古い話だ。その子どもたちも ひとりふたりと鬼籍に入りつつある。
今更心配もないのだが、どうしても感情は残るのだろう。




大きな失望
裏切られ、大事なものから引き剥がされ。

なぜ自分だけが辛い目にあうのだろう。





そうだねと言ってしまえば終わるのかもしれない。でも、そうだねと言った瞬間に 一緒に奈落の底まで落ちて行くような怖さはある。
なにもわかりはしないのに、わかるよ大変だったねと嘯くほどには、私は強くないのだ。

私は言葉を呑む。



同情はするのもされるのも大嫌いだ。
ひとの気持ちは そのひとの中で静かに何十年もかけて昇華してゆくのをじっと待つしかないのだ。

急ぐことではない。
いずれこの悲しさが消えてゆくのを待つしかない。
そのあいだ 黙って受け止めておこうと思う。 



誰の手も借りず、時を急がず。
つまらない言葉でこころを誤魔化すことのないよう。


そしてまたしばらく 深い底に沈んでいくのだ。誰も誰も来ない青い世界だ。